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2013年09月04日

立ち止まらずに歩き続けよう。道を間違えてもいいから。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


Keep Walking

前回はこうしたソーシャル・メディアを使った学習の初期に気をつけることとして、試行錯誤を繰り返して自分に合ったコミュニティとコンテンツと学習方法を「三種の神器」としてご紹介し、全力で走り始める前に、それを見つけることが必要だと申し上げました。

今日は、ある程度そうした準備が揃ったとして、その後どうするかを書いてみたいと思います。CEFRなどで言うとA1あたりまででしょうか。

ご存じの通り、人間が外国語を学ぶのは、パソコンを日本語対応にするよりずっと面倒で、脳みそにインストールすれば終わり、というわけには行きません。ですから、文法書や語彙リストを読めばすぐに使えるというわけでもありません。そのためには、ある程度の反復などが必要です。また、文法書などを読み進めていくにも、ある程度の時間は必要です。そのためにはいくつか気をつけておきたいことがあります。

■ 言葉を増やそう!
まずは語彙の増やし方ですが、前回ご紹介したオンライン教材には、基本的に文法を説明する部分と会話文などがあって、語彙リストなどはないことが多いです。仮に語彙リストがついていたとしても、一人の人間が一日で覚えられる語彙の数には限度がありますから、少しづつ身につけていかなければなりません。つまり、自分用にカスタマイズする必要があるわけですね。そのため、文法書に出てくる例文や、会話のスクリプト、あるいは規制の語彙リストなどから、既習の語彙を復習用のツールに取り込んでいくことになります。

語彙の復習用のツールというのは何でもいいのですが、有名なものでは前にもご紹介したとおり、ANKIやクイズレットなどがあります。もちろん、アナログが好きな方は紙の単語帳などを利用されるのもいいでしょう。日本にいるのなら、100円ショップで3つとか5つとかまとめて売っていますよね。目的は語彙や漢字(日本語学習の場合)などを定期的に振り返って定着させることなので、それができるのなら道具は何でもいいのです。

■ 文法は螺旋状に多視点で!
この段階の特に文法の学習で重要なのが「スルー」する力です。映画などを使って学習するCBIなどの場合、最初から全部理解しようとすると、語彙はともかく文法の面でまず挫折しますので、分からないところは「ま、いつか分かるさ」と気軽にスルーすることが必要なこともあります。ただし、語学の教師なら皆さんご存じかと思いますが、「ここで抑えておかないと後が大変」ということも多々あります。

学校外でソーシャル・メディアを使って勉強する場合、そうした判断を先生にしてもらうわけにはいきませんので、ある程度自分で判断しなければなりません。そのために必要なのが、螺旋的に階段を登っていくというイメージです。

文法書は、最初は分からなくてもいいので、とにかくざっと目を通しておくことが大切です。英語だったら「なにやら現在完了とか過去完了とかいうものがあって、haveとか使うらしい。hadのときもあるらしい。そのあとに過去形がつづくっぽい。意味は1つだけじゃなくて、いろいろあるみたい」というぐらいの大雑把な、時には間違いを含んだ理解でいいのです。というより、ちゃんと理解する前に全体の構造を知っておくことが大切なので、むしろ最初は細かいことまで分かるレベルで精読しようとせず、むしろ速度を大切にして目を通してみましょう。

そして、最後まで目を通してから、精読に入ってみましょう。精読もレベルを分けて、
「一字一句読むが、理解できないところは気にしない」
「理解できなかった疑問点をつぶしながら読む」
「例文を暗誦できるまで読む」
という風に、その時の自分のレベルにあった目標を立てて、螺旋状に階段を登っていくように繰り返し同じ文法書を使って勉強していくといいでしょう。

こうすることの意義は主に2つあります。

一つは、全体の量が分かることによって、自分が今どこにいるのか認識できることです。語学の学習というのは長い道のりですから、どこまで行かなければならないのか分からないと、歩きつづけるのは大変です。しかし、「もう半分来た」とか、「ゴールが見えてきた」と感じることができれば、何とか止めずに先に進むことができます。そのためにも、全体の道のりがどれぐらいなのか、初期の段階で把握しておくことが大切なのです。

また、もう一つの理由として、先送りしていい問題なのか、ここで解決して置かなければならない問題なのかを判断できるということもあります。たとえば「何だかよく分からないけど、これは後で出てくる現在完了とか過去完了とかいうやつみたいだから、そこを勉強するときに分かればいいや」という感じですね。

つまり、こうしておかないと、分からないことは全てその場で解決しようと思ってしまうことになってしまいやすいのです。しかし、残念ながら語学の教科書は全てが誰でも完全に理解できるように書かれているわけではありません。また、例文の中に未習の文法項目が出てきたりするようなこともあります。それは計算された上でのデザインであることもあり、決して悪いこととも限らないのですが、全部を100%理解しないと不安になってしまうような真面目な人もいますよね。そういう学習スタイルの人でも、後のほうでもう一度きちんと勉強することだと理解できれば、安心して前に進むことができるのです。

以上が「螺旋的に登っていく」と言われる時のイメージですが、文法の勉強に関しては、もう一つ「多視点で」勉強することも大事です。これも教室で勉強する学生にはあまり言われないことかと思いますが、メインの文法書とは別に、少なくとも目次ぐらいは見ておいて、内容を比較できるぐらいの資料があると複眼的にその言語を見ることができるようになります。

たとえば、ヨーロッパ言語などのようにまったく系統の違う言語の話者が日本語を学んだりするときなどは、母語の影響などで、日本語の文法書に載っていることが間違っているようにしか見えないことなどがよくあるのです。たとえば僕自身も中学の時に、英語では「兄」と「弟」の区別をしないと知ったときは何かの間違いではないかと思いました。しかし、複数の資料でそのように書いてあれば、それは間違いではないと判断しても大過ありません。もちろん、すでに学習コミュニティがあれば、そこで「ここにこう書いてあるけど、これって本当?」と聞いて見るのもいいでしょう。

コミュニティがあれば必ずしも文法書が二冊なくてもいいのですが、このように多視点で見ることができるようになれば、一見間違っているように見える文法を正しく理解したり、あるいは時として実際に間違いも含まれている文法書などを利用したりする際に、思わぬ落とし穴にはまってしまような危険が少なくなるでしょう。

学校で勉強するときは、残念ながら今でも、ある程度は教師を信用することが求められることが少なくありません。しかし、ソーシャル・メディアを通して自律的に学ぶときは、そうした絶対的な存在がないので、仲間たちを信頼しつつも、最終的にはすべて自分で判断しなければなりません。そうした時には、こうして資料などを批判的に見つつ、しかも立ち止まらずに前に進んでいくという態度が重要になります。

■ 聴解は音声編集とスキマ時間が命!
 何度も反復が必要なスキルの育成としては、語彙と並んで聴解がよく挙げられますよね。しかし、教室で使われることを前提として作られている聴解教材の中には、ここで紹介しているような自律的な学習には向かないものが少なくありません。なぜかというと、教室では本を開いて文字やイラストを見ながら音声を聞くようなスタイルができる一方で、自律的に学ぶ場合はそのように環境を整えて学習する時間を大量に確保できないことが少なくないのです。

そのために、こうした学習スタイルを取る場合は、ある程度、音声を編集して、通学や通勤の時間などに繰り返し聴き込めるようにする必要が出てきます。

音声を編集する場合、主に2つのケースがあります。読解でもそうなのですが、精読と速読に当たるような聞き方を聴解でもする必要があります。

■ 既成教材を利用する場合
まずは精読に当たる聞き方の場合ですが、この場合は意味などもきちんと理解した上で、初級なら初級の、自分のレベルに合ったレベルの音声教材を聞く必要があります。

しかし、上記のように市販の音声教材の多くは教科書を見ながら聞くことを前提に作られていることが多いです。たとえば、教科書があれば文字で理解することができるために、音声には学習言語しか入っていないような場合です。また、自然な速度であることを目指している音声教材も、文字資料がなければいわゆる「理解できるインプット」にならず、初心者の耳には学習効果があまりないことになってしまうこともあります。教室で机に座って勉強するのならそれでもいいのですが、自律的な学習者の場合は通学や通勤の途中で聞くことが多いので、それでは訳の分からないまま無味乾燥な例文を聴き続けるという拷問になってしまいます。

英語ぐらい教材の普及している言語なら、そうした目的のための音声教材も市販されていますが、もっとマイナーな言語の場合は、なかなか自分に合った教材は見つかりません。その場合は隙間時間に教科書を開かずに音声だけで勉強できるように編集したり、ソーシャル・メディアで知り合った母語話者にあらたに吹き込んでもらったりする必要があります。

編集の例としては、たとえば学習言語しか入っていない音声に、自分で自分の母語で訳を入れたりすることがあります。あるいはソーシャル・メディアで知りあった母語話者に吹きこんでもらった音声の場合も、相手はプロではないし「ごめん、そこのところ、もうちょっとゆっくり読んでくれる?」とかこちらが注文を入れたりすることがあるので、そのまま聴きこむ前に音声編集ソフトで編集しておくと便利です。

■ 映画の音声は編集で学習効果200%!
もう一つは、映画やドラマの音声などを繰り返し聴きこんで聴解力を鍛える場合です。この場合は、細かいところは理解する必要がなく全体を楽しめばいいので速読に近いのですが、しかし通学や通勤の時間に言語学習の教材として聞くには、適切ではない面があります。それは、映像なしで音声だけを聞く場合、会話のない映像中心のシーンは、あたりまえですがあまり学習効果がないということです。

たとえば『となりのトトロ』を思い出してください。メイが自宅の庭で初めて小トトロと中トトロに出会う10分程度のシーンがありました。映像としては非常に印象的ですし、音楽も楽しいのですが、登場人物がメイと小・中トトロだけなのでセリフが「おじゃまたくし!」ぐらいしかありません。こういうシーンは芸術上の価値とは別に、いくら聴きこんでも日本語が上手になるわけではないので、繰り返す聴きこむバージョンには含まれなくても学習効果が落ちるわけではありません。

つまり、映画やドラマなどの作品を繰り返し聴きこむためには、登場人物の音声以外の部分を削除する方が効果的です。どのぐらい効果的かというと、ほぼ「2倍」効果的だといっていいでしょう。

というのも、だいたいミュージカルにしろSFにしろ、音声以外を削除してみると、長さがほぼ半分になるのです。上映時間が約3時間の『アバター』は90分ぐらいになりますし、2時間程度のものはほぼ60分ぐらいになります。ディズニーの『美女と野獣』(歌の部分もカット)、『トレジャー・プラネット』、ハンガリー語の『君の涙、ドナウに流れ』など、僕が音声のみに編集したものは、全部ほぼ半分の長さになりました。

つまり、100時間なら100時間と単位を決めて比較すると、2時間のバージョンなら50回しか聞くことができませんが、セリフのみのバージョンなら100回聞くことができるのです。つまり、新しい言語を聞いて耳になじませる際、学習効果は音楽や戦闘シーンの効果音ではなくて、その言語で話されている言葉を聞いた回数に比例するとすれば、こうした編集をするだけで、聴解の学習効果を2倍に高めることができるのです。

■ 走り出す前と決定的に違うこと
前回は、走り出す前にコミュニティとコンテンツとツールを見つけておこうと書きました。そして、その際はブレインストームのようにできるだけたくさんの選択肢を試してみることが大切だとも書きました。

しかし、中にはいつまで経っても目移りしてしまって、走り出せない人もいます。ある程度の選択肢を試してみると、それぞれ一長一短であることが分かってくるからなのですが、この段階だけに時間をかけすぎてしまうと、結局、ゴールに到達する時間がどんどん遅くなってしまいます。実際、たとえばCEFRなどでA1レベルとされる人が一ヶ月ぐらいでC2レベルまで上達してしまう夢のような学習法は、残念ながら存在しません。そこまで言わなくても、自分の要求を100%満たしてくれる学習方法はもともと存在しないぐらいに思っておいた方が、むしろ気が楽です。

走り始める前にいろいろ試してみるのは、自分の欲望を100%叶えてくれる学習方法を見つけるためではなく、「絶対に我慢できない自分の嫌いな学習方法」を見つけるためだと思ってください。そして、そこそこ嫌いでない学習方法を選んだら、あとはその学習方法が好きになるような努力を自分でしていく、つまり、自分が変わっていくようなアプローチのほうが、むしろ長続きするように思われます。

そして、一度決めたら、ある程度は迷わずにそのまま走りつづけてみることが大切です。同じ学習方法で勉強を続けることは、何をしようかと考えてしまう時間を少なくできるという大きなメリットがあるからです。つまり、どのような学習方法を選ぶにせよ、一定の学習時間を投入しないと語学というのは上達しませんが、「どうやって勉強しようか」と悩む時間は、「この単語の意味は何だろうか」と悩む時間と違って、ゴールに直接近づくための時間ではないのです。

■ 走れないなら路線変更もためらわずに!
何度も書いていますが、この期間で大切なのは、とにかく前に進むことです。語彙を増やすなり、文法書を読み進めるなりして、立ち止まらずに、前に進まなければなりません。上で「学習方法で悩みすぎないこと」と書いたのも、そのためです。

しかし、もし何らかの事情でそれまでの学習方法では進み続けなくなってしまったら、その場合は学習をやめてしまうのではなく、路線変更をしてでも前に歩き続けましょう。一つの目安としては、「この学習方法でいいのか」と悩む時間が、本来の学習時間を圧迫するぐらいになったら、いっそのこと路線変更を考えてもいいのではないでしょうか。

もちろん、上に書いたように路線変更に忙しくて前に進めないようでは本末転倒ですが、逆に、前に進めないぐらい自分の進行方向を疑問に思ってしまうのなら、路線変更をためらうべきではありません。

■ ソーシャル・メディアを最大限に利用しよう
さて、こうした、文法の勉強や、語彙の復習や、音声教材の聴きこみは、どちらかと言えば個人でできることです。自律的な学習者の場合、こうした時間は多かれ少なかれ必要ですが、学校での勉強と違って、非常に孤独になりがちです。特に学習開始直後の初期の段階では、まだ学習言語でコミュニケーションできるレベルではないので、母語話者と文字や音声でやり取りするという語学の一番のご褒美も得られないのです。

そうした場合、ソーシャル・メディアでどんどん成果を共有していきましょう。

たとえばANKIやクイズレットでは、それぞれのセット(語彙リストなど)に含まれる語彙などの総数が表示されます。自分の学んだ語彙などを一つのセットにまとめておけば、自分が大体どのぐらいの数の語彙を身につけたのかを常時モニターすることができます。そして、「ようやく語彙数が500語いった!」などと自分の進捗度をシェアして行きましょう。前にも書きましたが、こうしたことを公開して書くのが恥ずかしいと思う人は、FacebookやGoogle+で共有範囲を設定して、同じ言語を学んでいる人やその言語の母語話者だけに見てもらうなど、工夫するといいでしょう。

また、文法を学ぶときは、よほどシンプルな言語をよほど優れた研究者が説明したものでもない限り、間違っているようにしかみえない説明に必ず出会ってしまいます。そして、残念ですが、実際に文法書が間違っていることも少なくありません。文法書どころか、すぐに訂正できるはずのウェブページですら、その言語の一流の研究機関が血税を使って書いたもののはずなのに、基本的な間違いが訂正されないまま何年も記載されたままになっていることもあるのです。その場合も、「ここにこう書いてあるけど、これって本当?」などとコミュニティに聞いてみる機会があると、学習にかかるストレスをかなり軽減することができます。

聴解に関しては、教材として作られたものなら、普通は文字化された教材もあり、その意味なども説明されていることが多いのですが、映画やドラマなどの場合はそうもいきません。上にも書いたように分からないところは適当に流して前に進むのがこの段階の基本ですが、しかし、何度も出てくる決め台詞などは繰り返し聞いているとだんだん思い入れが深くなってしまい、何と言っているのかどうしても知りたくなってしまいます。どのような場合にも、ソーシャル・メディアのコミュニティがあれば、聞いてみることができます。こういう質問の場合は、その言語の学習者のコミュニティよりも、たとえば名探偵コナンとかNARUTOなどのコンテンツごとのファンクラブのようなコミュニティのほうが歓迎されることもあります。

さて、読み書きなどについても書きたかったのですが、ここまでですでに7000字を超えてしまいましたので、今日はこのへんまでにしておきます。

繰り返しますが、何かの言語を身につけようと思ったら、最初はいろいろ手を出して見ることが大切ですが、走り始めたら、そのあとはむしろ、立ち止まらずにとにかく前に進み続けることが大切です。時には道を間違えてしまったことに気づくこともありますが、その場合も路線変更したら立ち止まらないで、どんどん前に進んでいきましょう。一歩一歩前に進んでいけば、いつの間にか振り返ってみるとけっこう長い道のりを歩いてきたことに気づくはずです。
posted by 村上吉文 at 04:56 | Comment(2) | TrackBack(0) | 日本語hacks! | このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
村上先生、いつも本当にありがとうございます。
いろいろと勉強になっており感謝しています。
Posted by Seiko Hatakeyama(畠山誠子) at 2013年09月04日 17:54
こちらこそ、レバノンからのコメントありがとうございます! シリアの問題で心配しております。ご自愛くださいませ。
Posted by 村上吉文 at 2013年09月04日 18:08
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