2013年08月24日

走り出す前に見つけておきたい三種の神器。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


The Opportunity Of Failure

今まで「ソーシャル・メディアで外国語を学ぶというのは何ではないか」ということを何回か書いて来ました。しかし、そういうことばかり書いていると、「で、それは何なの?どうやるの?」という疑問を持たれるのも当然かと思いますので、ちょっとずつ書いてみたいと思います。

■ 初期に大切なのは試行錯誤

学び始めの時期にしなければならないことは、とにかくいろいろ手を出してやってみるということです。というのも、最初はどんなリソースがあるのかも分かりませんし、自分がどんな方法が好きなのかも分かっていないことが多いからです。

よく企画の方法として、最初にブレインストーミングで大量のアイデアを出してから、あとでそれをまとめていくという方法が取られることがありますが、今のようにリソースが豊かにあり、学習者の多様化が進んでいる時代には、自分の学習を企画するにもそういった方法が大切です。

ブレインストーミングでは、どんなに馬鹿馬鹿しいアイデアでも口に出していってみることが尊重され、逆に他者のアイデアを批判することは禁じられます。もちろん、後でアイデアを集約させていくときにはダメ出しなども必要ですが、ブレインストーミングでは質の高さよりも量の多さが大事なので、このような方法がとられるわけですね。

自分に合った学習方法を見つけるときにもそれと同じで、検索結果などのタイトルを見て「くだらないかな」とか「難しすぎるかな」と思ったとしても、実際にそのリンクを開いてみることが推奨されます。開いてみると、自分にとっては難しすぎるけど、動画に出てくる女の子が可愛いからがんばってみるとか(「エリンが挑戦!」などでよく聞く話ですよね)、友達が入っているコミュニティーだから自分もそこに入るとか、自分の母語が入力できるのはそのツールしかないからとか、そういう理由で使うようになることもあるので、とにかく色々とやってみましょう。

では、何を見つけるのか。僕はここで見つけるべきものは主に3つあると思っています。

■ 誰と?どこで?

一番大切なのはコミュニティを見つけることです。できれば自分の母語を学んでいる、自分にとっての学習言語の母語話者たちのコミュニティ。たとえば日本語の母語話者であり、ハンガリー語を学んでいる僕の場合は、逆に日本語を学んでいるハンガリー人のコミュニティを見つけることができれば、お互いにメリットのある関係を最初から作ることができます。ハンガリー語について日本語で質問することもできますし、日本語学習に困っているハンガリー人がいれば、手助けしてあげることができるかもしれません。

そういうコミュニティが見つからなくても、エンジニアなどの専門職の場合は、自分の学習言語でその専門について話しあうようなコミュニティがあれば、これも役に立ちます。例えば僕は別に専門ではありませんが、Googleの新サービスなどに関するハンガリー人のコミュニティにも入っているのですが、「今度のソニーのAndroidはすごいらしい」とか、だいたい日本でも話題になっていることが同時にハンガリーでも話題になっていたりしますので、もうキーワードを幾つか調べるだけで「ああ、あの話題だな」と想像することができます。一般的なコミュニティでは話題が広すぎますが、こうした専門性のあるコミュニティでは、関心のない人には難しくても、同じ関心を共有している人にとっては、内容が想像しやすいというメリットがあります。また、関心のある内容なら、動機の維持の面でも効果的ですね。

クラスで勉強するときは必要ないかもしれませんが、CBIなども取り入れる場合は、映画やアニメなど、そのコンテンツのファンクラブなどのコミュニティも探しておくといいでしょう。

クラス単位ではなくて独学で勉強するときは、このコミュニティを見つけられるかどうかで成否が決まるといっても過言ではありません。

しかし、中には自分にピッタリのコミュニティが見つからない場合もあります。また、転勤のために語学を学び始める時などは自分がその言語を学び始めたことさえ口外できない場合もあり、コミュニティに参加することはできないかもしれません。そういった場合は、その母語話者を探してフォローしておくだけでもいいでしょう。こうした目的のためには相手に友達申請を承認してもらわなければならないFacebookよりも、一方的にフォローできるツイッターやGoogle+などの方が向いているでしょう。

■ 何を?

学習初期に見つけるべきもののうちの2つ目は「コンテンツ」です。つまり、「何を学ぶか」ということです。

この「コンテンツ」にも実は二種類あって、一つは体系的な学習用の教材と、もう一つはその言語で作られた映画などの作品です。

中級以降になると、あるいは人によっては初級後半からでも、こうした体系的な教材が必要でない場合も少なくありませんが、初級の最初から主教材なしに学ぶというのは、今の一般的なITのレベルではまだ少し難しいように思っています。

日本語学習の場合に役立つオンラインの主な教材としては、以下のようなものがあります。

大阪大学の独習コンテンツ http://el.minoh.osaka-u.ac.jp/flc/jpn/index.html
蟻末淳さんのj-learning.com http://j-learning.com/
NHKの「やさしい日本語」シリーズ http://www3.nhk.or.jp/lesson/
東京外語大学のJPLANG http://jplang.tufs.ac.jp/account/login
「エリンが挑戦!日本語できます」 http://www.erin.ne.jp/
「まるごとプラス」 http://www.marugotoweb.jp/
など。

また、これら以外にもいろいろニッチなニーズを満たすためのサイトも大量にあります。案内用には日本語学習サイトを紹介するための「ニホンゴeな」というサイトがあり、ここでレベル別や、あるいは漢字や聴解などの内容別の検索を行うこともできます。
http://nihongo-e-na.com/jpn/

さて、上のほうで「コンテンツは主教材と映画などの作品の2つが必要だ」と書きました。

映画などの作品は必ずしも必要だとは限らないのですが、たとえば主教材で東京外語大のJPLANGを選んだ場合、これはこれで良いところもたくさんあるのですが、どういう場面でどういう性格の人がどういう気持で話しているのかという文脈があまり明確ではありません。また、聴解用の音声なども非常に事務的な雰囲気なので、感情を刺激するレベルが低く、要するに僕のように飽きっぽい人間にはこれだけで学習を続けるのは無理です。しかし、たとえばベトナム語母語話者にとっては、これは数少ない候補のうちの一つなんですね。もしかしたらこれしか主教材候補がないということもあるかもしれません。

その場合は、映画やテレビドラマなどの作品も併用すれば、こうした作品では場面、キャラクターなどもはっきりしていますし、また音楽なども挿入されていて、気に入った作品に巡りあうことができれば、何度もでも何十回でも繰り返し視聴したり聴きこんだりすることができます。

また、これはCBIの方でもあまり強調されていないように思うのですが、こうしたコンテンツを学習に取り入れると、「定点観測」のツールとしても非常に役立ちます。定点観測というのはどういうことかというと、自分の成長を測定するためのツールといってもいいかもしれません。また僕の例で恐縮ですが、たとえば、『君の涙、ドナウに流れ』という救いがたい邦題を与えられてしまったかわいそうなハンガリー映画を最初に視聴したときは、「おはようございます」と「ありがとう」にあたる表現しか聞き取れなかったのですが、主教材として使っていた大阪大学の独習コンテンツで文法や語彙を増やしていくと、それにしたがって理解できる部分が増えていくのが手に取るようにわかるのです。中級以降ではそれほど急激な成長は実感できないかもしれませんが、初級レベルでは使用頻度の高いものから順に学んでいくので、まさに1課を学べば1課分の進歩が実感できます。打てば響くという感じですね。

初級レベルでは、まだ実際の対人コミュニケーションで成果を実感する機会はあまり多くないので、こうした「コンテンツを理解する」という方法で自分が達成しつつあるレベルを確認していくのは、非常に重要ではないかと思います。

また、逆にそれらの作品から「この決め台詞では何と言っているのか」と知りたくなるものがたくさんあります。文字があれば自動翻訳にかけることも簡単ですし、公開されている作品ならコミュニティで聞いて見ることもできるでしょう。上のほうで作品のファンクラブなどのコミュニティも役に立つと書いたのはそういう意味です。印象的なセリフは文法などが分からなくても頭に残りますし、あとで主教材の方で、そのセリフに出てくる文法を学んだ時には「そうだったのか。自分はこれが分かる所まで来たんだ」と感慨深く振り返ることもできます。

ちなみに、こうした学習方法に慣れていない教員の方から、ときどき「初級前半程度で映画が楽しめるわけがない」という声をいただくことがありますが、そんなことは決してありません。確かに、全く内容の分からない映画だったら楽しめない場合もあるかもしれませんが、一度でも字幕や吹き替えで試聴することができれば、二度目からは原語だけでも充分に楽しむことができます。楽しめなかったら、それはその作品が好きではないということなのではないでしょうか。その意味でも、学習初期にはお気に入りの作品に出会えるように、きちんとした学習を始める前に、手当たりしだいにいろいろ見てみるという期間を設定することが必要です。

また、「決め台詞なんて高等な表現なんだから初級では無理」という声も聞くことがありますが、たとえばアニメのワンピースの「海賊王に俺はなる」とか、名探偵コナンの「真実はいつも一つ」とかだって、語彙的には初級ではないかもしれませんが、文法的には初級前半でまったく問題なく理解できるレベルですよね。ワンピースもコナンも知らない人だったら「タミさんは野菊のようだ。僕は野菊が好きだ」とかだったら、ご理解いただけるでしょうか。印象的なセリフほど、構造はシンプルだったりするんですよね。

『君の涙、ドナウに流れ』でも、これは1956年のハンガリー動乱のときの水球選手が主人公なんですが、クライマックス直前でチームが崩壊しかかった場面で、「練習がある」という非常に重要な台詞があります。このセリフを転機にして、自暴自棄になっていたメンバーたちが一丸となって宿敵ソビエトチームと対決していくことになるのですが、これもハンガリー語では2語しかない文で、文法的にも非常に単純なセリフです。ちなみに、映画の前半でも全く同じセリフを同じ人が言うのですが、このときは「ソビエトからの開放運動には参加しない」という全く逆の意味だったりするのも非常に面白いです。(すみません、この映画の話になると止まらなくなるのでこのへんで無理やり止めます)

■ どうやって
学習初期に見つけておきたいものの最後の一つは、自分に合った学習方法です。ツールや環境といってもいいかもしれません。

たとえば、コンテンツの部分で僕は大阪大学のハンガリー語独習コンテンツと映画『君の涙、ドナウに流れ』を選んだわけですが、語彙を増やしたり、耳を慣らすには、ある程度の反復などが必要になります。

そのために、語彙は前にもご紹介しましたが「クイズレット」というツールに登録していますし、そこからランダムに10問選んで出題して、解答を採点もしてくれるページを、ブラウザを起動した時に自動的にひらうように設定しています。

また、最近はスマホを持っている学生も多いですから、学習環境としては無視できません。僕のハンガリー語学習の場合は大阪大学の音声コンテンツと映画『君の涙、ドナウに流れ』の音声を編集したものをスマホに入れて、移動やジョギングの時間はずっと聞いていました。

ただし、これはあくまでも僕の場合であって、こうしたツールや環境も人によって合うか合わないかはまちまちです。スマホを持っていない人もいるでしょうし、クルマやバイクで通勤や通学をする人はあまり音声に耳を傾けることはできないでしょう。教室で勉強するだけなら条件はそれほど変わりませんが、学習者の多様性を尊重しつつ学習効果を最大化するには、こうして一人ひとりに合った環境を整えさせる必要があります。そして、そのためにはコミュニティで色々なアイデアを集め、少しでも役に立ちそうだと思ったら実際にやってみるという試行錯誤を繰り返しながら、本当に自分に合ったツールや環境を作っていく必要があります。

■ 失敗を恐れずに

一斉授業の時代には同じ教科書を同じ進度で勉強するのが普通でした。みんなが同じ考え方をしていて教科書などのリソースが少ない時代には、それが最適の学習方法だったからです。しかし、個人が多様化してリソースもこれほど豊かになったソーシャル・メディアの時代には、そうした手法はもはや大量の落ちこぼれを産んでいく原因にしかなっていません。多様な学習者のニーズと、大量に存在するリソースを上手くマッチングさせていく必要があります。

そのためには、学習の専門家である教師が一人ひとりの学習計画をたててあげることができればベストなのですが、一斉授業の担い手しての役割も期待されている一方でそんなきめ細かいケアができるわけがありません。したがって、学習の素人である学習者が自分で学習計画を立てていかなければなりません。素人ですから、もちろん無茶なことをやろうとしますし、そのたびに失敗もするでしょう。しかし、自分自身に最適な学習方法を見つけていくには、それは避けられませんし、またそれ自身が成長の道のりでもあるのです。

そのためには、三度や四度の路線変更はむしろ当然であるという認識で、試行錯誤を続けていく必要があります。そして、こうして試行錯誤を通して自分に最適の学習方法を見つけることこそが、この変化の激しい時代を生き抜く唯一の方法なのではないでしょうか。
posted by 村上吉文 at 08:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
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