2013年08月14日

それはコンテンツであり、教科書ではない。もしくは文法訳読法とCBIについて。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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先日、文法訳読法から、オーディオ・リンガル、コミュニカティブ・アプローチへと続いてきた外国語学習法に続いて、ソーシャル・ネットワーキング・アプローチというものがあるという大雑把な流れをご紹介しました。(http://goo.gl/3SviNU

先日の記事でもあらかじめ「大雑把にまとめた」とおことわりもしていたのですが、中でも文法訳読法がいちばん時代遅れで悪い学習法だという誤解をされている方がいらっしゃるとしたら申し訳ないので、ここでひとつ書いておきたいと思います。

一般的に言われている文法訳読法が一番盛んだったのは、もしかしたら明治から戦前にかけてかも知れませんが、僕にとってのイメージは、幕末の「蘭学」です。テレビドラマによく取り上げられるからかもしれません。

そこでは板の間か畳敷きの部屋の中で、ちゃぶ台のような座卓に黒い墨と毛筆を置き、背筋をぴんと伸ばして正座している侍と、その前に座って講義する教師の姿が描かれることが多いでしょう。その時代ですから、もちろん女性が混じっていることはありません。

しかし、今、僕はこの文法訳読法を再評価してもいいのではないかと思っています。

■ それはコンテンツとスピード
文法訳読法が批判されるのは、それが文字の学習に偏り過ぎ、口頭でのコミュニケーションで利用されることを前提としていなかったという時代的背景があります。長い鎖国の結果、時代から取り残され、欧米の砲術などを学んで対抗しなければ、日本という国自体がなくなってしまうという当時の歴史の流れの中では、もちろんそれ以上は必要とされていなかったに違いありません。つまり、語学の他に、その言語で記述されている砲術などのコンテンツ自体も学ばなければならなかったのです。しかも、鎖国で200年以上も世界から遅れを取ってしまった技術を、たった数年で取り戻さなければならなかったのですから。

しかし、いま再び文法訳読法に注目したい理由も、まさにそこにあります。コンテンツとスピードです。僕たちが生きている現代は、学ぶべきコンテンツに非常に容易にアクセスできるようになりました。インターネット以前の時代は語学を学ぼうと思ってもそれほど多くのコンテンツに触れることができたわけではありません。そして、いったん世界には追いついたものの、今度は世界全体の変化のスピードが非常に早くなっています。

理系の学生を知っている人なら、彼らが英語で発行されている専門の学会誌を大量に読んでいることを知っているでしょう。彼らのほとんどは英文の論文を読んでいるだけですから、書いたり話したりはあまりできないと思いますが、しかし読んでいる量は非常に多いです。僕の兄も技術系で、海外に住んだことはおろか、旅行だって出張に一回と新婚旅行に一回しかいったことがないドメスティックな人間ですが、semi-conductorなどの技術用語は普通に知っています。

そして、スピード。重要なニュースはかなりの確度で日本語化されて入ってくるようにはなっていますが、エジプトからのニュースはやはりアラビア語のものが一番早いですし、そのあと英語で読めるようになり、最後に日本語がやってきます。(僕のアラビア語は残念ながら補助ツールなしに政治のニュースが読めるレベルではないのですが) そして、ソーシャル・メディアでリアルタイムに現地の友人とコミュニケーションできる今、ニュースが日本語化されて新聞に印刷されて家まで届くのを待っているわけにはいかないようなこともよくあります。

あまり普段は意識しませんが、こうしたコンテンツを読んでいきながら、同時に、あるいは結果としてそのコンテンツが書かれている「言語」を学んでいくのは、文法訳読法にかなり近い学習方法ですよね。

■ 現代の訳読法、その名は・・・
しかし、幕末の時代と違って、現代の文法訳読法で大きく花開いているのは技術や法律などに関するものだけではありません。中でも日本語学習で非常に注目されているのは、エンターテイメントの分野です。アニメや漫画、Jポップなどの世界ですね。

いったん文法訳読法が廃れてから、オーディオ・リンガルやコミュニカティブ・アプローチが盛んだった頃には、インターネットがありませんでした。しかし、インターネット元年と言われた1995年以降、海外と日本の情報の壁は徐々に低くなり、今では多くのコンテンツが合法的に海外でも視聴できるようになっています。僕が毎日聞いているハンガリー語の映画のDVDも、もしインターネット時代の前だったら、その存在を知ることすらできなかったでしょう。

こうして非常に多様なコンテンツにアクセスできるようになった結果、幕末の時代と違って、人々は自分の好みにピンポイントで合ったコンテンツを見つけることができるようになりました。そして、そのコンテンツを通して言語を学ぶことができるようになったのです。

今では、こうしてコンテンツを通してその言語を学ぶ学習方法はCBI(Content-Based Instruction)と言われています。ソースネクストが出している超字幕シリーズなどはその代表格かもしれません。

実は、こうしたCBIはオーディオ・リンガルなどの時代にもほぞぼそと続いてはきたのですが、それほど大きな流れにはなっていませんでした。たとえば1988年の創業したスクリーンプレイ社という会社(現 株式会社フォーイン スクリーンプレイ事業部)がハリウッド映画のシナリオを英和の対訳付きで出版したりしていましたが、今の超字幕ほどの人気はなく、いつの間にか大手の書店店頭では見かけられなくなってしまいました(Amazonなどでは販売は続けらています)。

■ なぜ今CBIなのか
今から振り返ってみると、20世紀にこうしたコンテンツ重視の学習があまり受け入れられなかった大きな理由は、学習者同士の交流ができなかったからなのではないでしょうか。これはもういろいろな人が指摘しているので新たに僕が言うまでもないことですが、学習というのは一人では実を結びにくいものなのです。そして、スクリーンプレイ社が創業した80年代は、その買い手は全国に散在していて、おそらく買い手にとっては身の回りに同じコンテンツで学んでいる人はほとんどいなかったのではないかと思います。

しかし、ソーシャルメディアの時代になり、同じコンテンツをファン同士が交流しながら勉強することができるようになりました。たとえばこの「むらログ」で最も人気のあるコンテンツはスティーブ・ジョブズの英語のスピーチを英語学習用に加工したもの(http://goo.gl/I2j4l)で、まさにCBIなのですが、僕が毎日顔を合わせている同僚などでこのスピーチを知っている人はほとんどいないのではないかと思います。しかし、それでもこのソーシャルメディアの時代には、ブログやSNSなどで情報発信すれば、このように多くの人から反応があるのです。

また、興行記録を10年ぶりに塗り替えたことで有名な3D映画『アバター』の中で、今ひとつ意味がよく分からないセリフがあったので、そのセリフで検索してみたことがあるのですが、その結果には本当に驚きました。世界中で僕と同じ疑問を持った人がいたようで、それについて質問している英語学習者がたくさんいたのです。

もちろん、これは世界で一番売れた映画ですから、今思えばそのぐらいのことは当然なのかもしれません。しかし、ソーシャル・メディアの時代は同時に「ロング・テール」の時代でもあります。相当にマイナーなコンテンツであっても、検索してみれば同好の士を見つけることができるのです。僕がハンガリー語学習に使っている『君の涙、ドナウに流れ』でハンガリー語を学んでいる人のことは、以前このブログでもご紹介したことがありますが、これもやはり、ソーシャル・メディアの時代でなければ見つけることはできなかったでしょう。

つまり、世界各地に散在している学習者たちにとっては、オンラインのコミュニティがあるからこそ可能になった学習形態なのです。その意味で、CBIもソーシャル・メディアの時代だからこその学習法だということができるのではないでしょうか。

CBIの「売り」は何と言っても、学習者の愛です。特に映画などはドラマチックなストーリーに音楽や映像もあるので、非常に強力なインパクトがあります。日本語教育に関わっている人なら誰でも、『名探偵コナン』や『ナルト』、『ワンピース』などを教材に日本語を覚えてしまったオタクたちの一人か二人は必ず知っていることでしょう。

僕自身も最初に自分のお金で見た映画『フラッシュダンス』の中の、"If you close your eyes, you can see the music."とか、"When you give up your dream, you die." とかのかっこいいセリフは30年たった今でも、俳優の表情や声の調子なども含めて、鮮やかに思い出すことができます。そして、こういう熱い「思い」を共有できるのが、まさにソーシャル・メディアなのです。

ソーシャル・メディアの時代ならではの学習方法として、SNA、自律学習を先週あたりからご紹介して来ましたが、このCBIも同じようにソーシャル・メディアの時代だからこそ、あらためて注目されている学習方法といってもいいのではないでしょうか。

CBIについてもう少し詳しくお知りになりたい方は、こちらも合わせてご覧ください。
むらログ: CBI(Content-based Instrinction)が今後普及する三つの理由 http://goo.gl/BJ3YgG
むらログ: CBIの理論的背景など http://goo.gl/MwOHOr
posted by 村上吉文 at 17:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日本語hacks! | このエントリーをはてなブックマークに追加
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