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2013年05月12日

学ぶ意欲の心理学

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


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学ぶ意欲の心理学』という本を読みました。いろいろ気づきの多い本でしたが、中でも以下の二点は非常に同感です。

「語学の学習でも、昔なら、実際に使う環境に入るのは学習を始めてからずっと後のことでした。今でしたら、コミュニケーションしながら学ぶということはすごくやりやすくなっています」

これはいつも僕が言っていることですよね。SNSなどで検索すれば、海外の学習者でも日本語を学び始めたその日から、日本人に日本語で挨拶をする機会があるのです。

それと関係あるのですが、もう一つはこちら。

「基礎から積み上げる学び」と「基礎に降りていく学び」

「基礎から積み上げる学び」というのは、テニスの練習で言えば素振りと基礎トレーニングだけしばらくやってから、やっとボールが持たせてもらえて、それからさらに数ヶ月経ってゲームをやらせてもらえるようなタイプの学びだそうですが、著者によればこれは「どんどんやめてもらうには、これは最高の方法」なんだそうです。

語学の学習で言えば、従来の文型積み上げ式のコースなんかも「基礎から積み上げる学び」ですよね。

それに対して、「基礎に降りていく学び」というのはまず実践ありきで、テニスであれば「むしろはじめのうちに一通りの基礎を教えたら、まずゲームを経験してもらう。すると、下手でもそれなりにけっこうテニスって面白い。」と実践から入るわけです。そして、「うまくなるためには練習が必要なんだ」と納得した上で基礎練習をやるわけですね。で、基礎を少しやったらまたゲームに戻ると。

そして、著者の市川伸一は今までの教育において「基礎から積み上げる学び」と「基礎に降りていく学び」のバランスが悪かったのではないか、と指摘しています。

日本語教育でもまったく同じように思います。海外の学習者でも、挨拶だけでもいいから、まずは自分と同じ興味をもつ日本人をツイッターなりGoogle+なりで検索して、「こんにちは。わたしも〜がすきです」と話しかけさせてみたりするべきですよね。

でも、そのためには初期の段階からキーボード入力とかフリック入力を教えなければなりませんが、そういうことをやっている学校ってまだまだ少ないのではないでしょうか。そもそも「フリック入力って何?」という先生ばかりでそんな授業ができないところも少なくなさそうです。

学習方法の改善には内容関与的動機が必要

この本で初めて知ったことはいくつもありましたが、その中でも一番面白かったのは、学習方法の改善には動機の高さではなく、動機の種類が関係しているという点です。

たとえば報酬志向という、「お金や称賛を得るために勉強する」というタイプの動機がいくら強くても、そういう学習者が自分の学習方法を改善することに関心があるかというと、特に相関がないらしいのです。これは「内容分離的動機」という、要するに学習内容と関係のない動機の場合に一般的に見られることだそうです。他にも「関係志向」といって「親が勉強しろというから」というような動機も内容分離的動機とされています。

それに対して「内容関与的動機」といって、職場で英語が必要だから英語を勉強するとか、ハンガリー語そのものが面白いからハンガリー語を学ぶとか、日本にいる外国人が自分の子供の学校から来る学級通信などが読みたいから日本語を勉強するとか、そういう学習内容そのものが動機に深く関わっている場合は、学習動機の高い人ほど、学習方法への関心も高いそうです。

今これを書いていて思ったんですが、そもそも僕は内容分離的動機が非常に薄い人間なんですね、きっと。それで、動機が高いのに学習方法に関心の低い人の存在が想定外だったのでしょう。試験があったり人に言われたりしても、興味が無いものは勉強なんてしませんもんねー。(あくまでも僕の場合ですが)

外発的動機の功罪

この本で学んだことの一つは、アンダーマイニング現象というものです。詳しくはオンラインでは以下で読むことができます。
http://cs-d.awg.co.jp/csd/common/artcl/artcl_grp?artcl_grp_code=0201051#a_article_21

要するに「内発的に意欲がもてる課題に、外発的報酬をつけてしまうと、好きだからやっているという気持ちを阻害する」ということなんですよね。これはちょっと気をつけなくてはならないなあ、と思いました。もともと好きで勉強している学習者と、そうでない学習者が混在しているクラスなどで、目先の餌などで釣ろうとすると、やる気のない学習者にとっては動機付けになる可能性がありますが、逆にもともと好きだった学習者の動機を削いでしまう可能性があるわけですね。こういうことはデシという研究者の実験が有名だそうで、著者の市川さんはデシの『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』という本を薦めています。僕も読んでみたいですね。

また、この『学ぶ意欲の心理学』に収録されている和田秀樹さんとの討論(というか対決)で面白かったのは、そういう外発的な動機(目先の餌で釣るとか)なども、やる気がなくて落ちこぼれそうな学習者に使うのは決して悪いことではないということです。最初は無理やりやらされていても、小さな成功を体験させていくうちに、そういう目先の餌につられて勉強していたのが、もっと内発的な動機を持つようになっていくことがあるのだそうです。

他にもいろいろご紹介したいことはあるのですが、今日はここまでにしておきます。

と思ったのですが、ちょっと思いついたので1つだけ。アンダーマイニング現象では内発的動機を外発化させると動機が低下するおいうことですが、たとえば子どもがYouTubeを見っぱなしにしていて他のことをしないような時に、「YouTube一時間見ていたら200円あげるよ」とか言うと、YouTubeを見る時間が減るんでしょうかね?



posted by 村上吉文 at 11:56 | Comment(1) | TrackBack(0) | 書評 | このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
昨年のポストに今頃コメントしてすみません・・・ちょうど今この分野をやってたのと先生のデジタルバッジから飛んできました。

さすが、

「YouTube一時間見ていたら200円あげるよ」

は面白い発想ですね。

アンダーマイニングは結構な論争があるみたいですが、知る限りでは、認知的評価理論に基づく有能感と自己決定が報酬によって揺るがされるようなとき、アンダーマイニング効果が発生するんじゃぁないかと。これでいくとyoutubeをみるという課題は200円という報酬によってコントロールされても、有能感はたぶん揺らがないでしょうから、内発的動機も早々低下しないでしょうね。それに報酬をもらえると予測しては視聴すしていないということもあるでしょうし。

いやぁ、面白いですね、モティベーション!

Posted by 北 典子 at 2014年09月05日 22:25
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