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2007年02月24日

wikiこそ「ウェブ2.0と日本語教育」の本命

ウェブ2.0とは何かという議論はすでに過去のものとなりつつあり、今度はそれぞれの業界で「で、うちらは何をするの?」ということが語られつつあるようです。
実際に、国際交流基金のサイトにも「web2.0と日本語教育」という文章がありました。まだシリーズの「1」しかアップされていないので、今後が楽しみです。
http://www.jpf.go.jp/j/japan_j/publish/tsushin/useful_homepage/useful_homepage16.html(この文章を書いた担当の一人は某外資系のIT企業に長く勤めていた、IT技術の専門家です。)

上記の記事ではブログのことが中心でしたが、「ウェブ2.0と日本語教育」ということだったら、私はwikiこそが本命だと思っています。たぶん、基金のシリーズでも扱われると思いますが、ここでもちょっと説明しておきます。

wikiというのは、多くの人が自分の学んだことを書き出して一つのサイトを作る仕組みのことで、たとえば前に誰かが書いた記事に間違いがあれば、その間違いに気づいた人なら誰もが修正したりできます。「賢者の叡智」ではなく、こういう「大衆の叡智」とか「群集の叡智」なんていわれている概念が、ウェブ2.0の基本的な性格だと私は認識しています。そういえばアメリカのタイム誌が2006年の「今年の人(Person of the year)」に特定の人ではなく「あなた(you)」を選んだのは、まさにこの「群衆」が主役になってきたことの象徴ではないかと思います。

私が最初に出会ったwikiサイトも、おそらく多くの人と同様にwikipediaです(wikiの仕組みを利用した百科事典で、「日本語教育」の欄には私も加筆しています)。その後、wikipediaの運営方法に興味を持ったりもしたのですが、いちばん印象に残ったのは、Web 2.0 ツールのつかいかた まだ、Googleだけですか?という本です。この本ではいわゆる「できる人」へのアンケートの中に「あなたの使っているパソコンは何ですか」というような質問に並んで、「あなたが使っているwikiは何ですか」という欄がありました。「あなたはwikiを使っていますか」ではなくて「あなたが使っているwikiは何ですか」なのです。しかも、答えを見ると、いろいろなwikiのサービスがあることが分かりました。たしか、wikiを使っていない人は一人もいなかったんじゃないかな。第一線で活躍している人の中では、それだけwikiが普及しているわけですね。私はライブドアのwikiしか使ったことがないのですが、調べてみると本当にいろいろな種類があります。

で、これが日本語教育の世界にどう役立つかというと、第一には、もちろんオンライン辞書です。英語や韓国語、中国語ぐらいはオンラインで簡単に辞書が引けるようになっていますし、その中のいくつかは無料で使えるのにそれなりに質が高いと思います。しかし、たとえばモンゴル語がネット上で調べられるかというと、私の知る限りはまだ無理なようです。つまり、マイナーな言語の話者が日本語を学習するとき、他のメジャー言語の話者に比べてはるかに不利な状況にあるわけです。

しかし、最初は誰かたった一人でもいいので、自分の学んだ単語帳をwikiの形で公開してみたらどうでしょうか。最初は例文も何もなくていいのです。「わたし Bi」というような不完全な形でもいいでしょう。みんなが少しずつ改良していくことがwikiのいいところなのですから。

ただ、ちょっと問題なのは現在の無料のwikiサービスが、もし発展したら何万語にもなるかもしれない辞書のデータとして利用できるのかどうかです。サーバーの負担だって大変でしょうし、いざその会社が買収されたり倒産したりしてもデータを守れるかというと、私の使っているライブドアは大丈夫なんでしょうか。

そういうことも考えると、やっぱり国際交流基金あたりが旗を振って、各国の日本語学習者に呼びかけるというのがいいのではないかな、と思ったりもします。自前でサーバーも用意して。

実をいうと、その程度のことを基金の誰一人として考えていないということはありえないので、もしかしたら既に水面下では動いているのかもしれません。今後の基金の「web2.0と日本語教育」のシリーズで発表があるといいですね。

ただし、wikiというのはもっと小さな話でももちろんいいのです。たとえば今学期の学習記録をwikiで始めるというだけでもいいでしょう。もし事前に学習者を一人ずつ指名して「第〜課の新出単語を自国語に翻訳してwikiにアップせよ」というような指示を出しておけば、授業前に全員がそれを共有できますよね(これは海外の媒介語ありのたとえですが)。難しかったら、授業の後の復習にでもいいのです。そうしてデータを作っておけばおけば復習用には使えますし、次の学期には予習としても使えるでしょう。

ちなみに、私の使っているライブドアのwikiでは「ページ一覧」というのを見ると項目が五十音順に並んでいます。つまり、無秩序に書き込んでいっても、自動的に辞書の索引のようになっているわけです。次の学期の学生が予習するのも簡単ですよね。皆さんの現場でも、すぐに始められることだと思います。

それから、ここまでは外国人の日本語学習を念頭に書いてきましたが、日本人対象のマイナー言語の教材にも、wikiはもちろん非常に強力なツールになると思います。

私はモンゴルを主なフィールドとしてはいますが、モンゴル語の業界ではないので遠慮なく言ってしまいますが、日本のモンゴル語研究の第一人者といわれている人の書いたモンゴル語の辞書も教科書も、本当にひどい代物です。もっと問題なのは、モンゴル語専門の人たちがあれはひどいと知りつつも、それを公的に指摘できない業界構造にあります。で、結局、モンゴル語学習者たちの不満は解決されないまま置き去りになり、つぶされるのが怖い若くて優秀なモンゴリストたちは新しい教材の出版に二の足を踏み続けます。

どこの世界にでもこういう構造はあるのでしょうが、そういう世界にもwikiで自由な風を吹き込むことは可能なのではないかと思います。wikiなら、誰でも何の遠慮もなく、匿名で書き込めるのですから。そして、私はそういう良心的な人がたくさんこの世界にもいるのを知っています。

さて、学習者の立場から以上のようなことを申し上げましたが、教員同士でも役に立つことはたくさんあると思います。いちばん考えやすいのは、やはり複数の教員で共同作業として教材をまとめるときですが、それ以外では授業の引継ぎなどにもいいのではないかと思います。

最近はメールを使って引継ぎをすることも多いのではないかと思いますが、「あれ? あの課は誰が教えたんだっけ」「あの課は何日にやったんだっけ」というようなことを急に確認したくなることがありますよね。そういうときに、wikiでは「一覧性」がメールよりも非常に高いですから、いろいろなメールをひっくり返しては検索するという手間が省けるようになります。やってみれば誰でもわかると思いますが、たとえばカレンダーに書き込んでおくようなことが参加者の誰でもできるので、その日にやったことを一日ずつ更新していくことなどが考えられます。

また、学習者ごとにページを作っておいて、特定の学習者に誰がいつどのようなケアをしたのか、どのような問題があったのか、担当した人がそれぞれ毎回更新していくこともできます。もちろん、wikiにはパスワードをかけて教員のみ閲覧できるように設定もできます。

というか、こういうのは若い人のほうが使い始めるのは早いですから、もしかしたら既に学生の運用する「教員ごとのページ」ができていて、学生同士で「あの教員はこういう宿題を出した」「ここでこんな冗談を言った」というようなデータベースが蓄積されていて「先生、それは昨日となりのクラスで言った冗談と同じですね」なんて切り返される現場があっても既におかしくないですね。


posted by 村上吉文 at 06:57 | Comment(4) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
う〜ん、面白いですね〜。
初めての視点だったので、衝撃を受けました。
コンピューターには弱いので、読んだ以上のことが分からないのが残念です。(読んだ全ても理解できていない)
個人的には教師間で授業進度、学生の生活・進路指導などの引継ぎとして使ってみたいです。
便利ですが、ネット環境が常に整っていなければならないのが前提なので、使用する人が限定されますね。
Posted by みっちー at 2007年03月04日 17:39
そうですか。wikiの存在も、その可能性も初めて知りました。じゃ、例えばタイと日本の友人とある調査をするときに、構えないで、そのときに踏み出せる一歩を打ち込んでいけば、パスワード内の同じ土俵で加筆、削除、加筆などが相互に気軽にできるのでしょうか。まだはっきりわかってないのですがメールなんかよりははるかにやりやすそうですね。(余談ですが、さっき電話をいただいたとき、この記事を読んでいました)
Posted by aso at 2009年06月02日 19:34
aso様
先ほどはご対応ありがとうございました。まさかこの記事をお読みになっているとは思ってもいませんでしたが。
もし、ご関心がありましたら、以下の記事もお役に立てるのではないかと思います。
「村上吉文:web2.0と日本語教育」
http://www.scribd.com/doc/917947/web2-0

wikiのようなツールはタイとの共同作業でもお役に立つのではないかと思います。
最近でしたら、Googleドキュメントなんかも、どんどん使い勝手がよくなっていますね。
単語レベルの共同作業ではこちらの記事もお役に立てるかもしれません。
「Googleドキュメントで語彙表を作ると共同作業がチョー簡単」
http://mongolia.seesaa.net/article/118099495.html
Posted by 村上吉文 at 2009年06月02日 20:13
コメントへの返信、ありがとうございました。
2つの記事も読みました。
新しい事柄ばかりでとまどっていますが、非常な面白さも感じています。
少しこの周辺を散歩してみます。
何か形になるようなものができたら、ご連絡します。
暗闇に一条の光を差し込んでくれた御礼まで。
Posted by aso at 2009年06月03日 13:14
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