2023年07月17日

人工知能で聴解力を伸ばす3つの方法

冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?

今日、僕が皆さんにお伝えしたいのは ChatGPT のような大規模言語モデルを使って聴解力を伸ばす方法です。

実はこの話はいろいろなところで話したりワークショップを実施したりしていたので、もうとっくにブログに書いていたつもりだったのですが、検索してみるとどうもまだ書いていなかったようなので、ここでまとめておきたいと思います。

ちなみに今週金曜日の「#zoomでハナキン0721」でも、みなさんにこれを体験してもらう部屋を作っています。ご関心のある方はこちらからお申し込みください。
http://bit.ly/hanakin_register

さて、ChatGPT を利用して 聴解力を伸ばすための一番簡単な方法は、読解教材を作る要領で自分の好きな内容のテキストを作り、それをText To Speech (TTS)という技術を使って音声ファイルを作ることです。

ちょっと前までの合成音声の技術は非常に稚拙なものでいかにもロボットのような不自然で人工的な感じがするものだったのですが(「ワレワレハウチュウジンダ」と扇風機に向かって話した思い出のある人は、その感じを思い出してください)、最近の音声化技術は目覚ましい発展を遂げていて、中には 人間が話しているのか合成音声なのか区別がつかないようなレベルのものも多く存在しています。もちろん個人で学習する場合はそれほど高品質なものは必要ないのではないかと思いますが、逆にその場合は全くお金をかけずに無料で利用することができるウェブサービスもたくさん公開されています。

いちばん簡単なものを一つだけ紹介すると ttsmp3.com という ウェブサイトがあります。TTS技術を使ってMP3ファイルを作るのですから、とても覚えやすい名前ですよね。これは毎日3000文字まで無料でテキストを音声化することができます。3000文字を超えると有料のプランを提示されて音声化できなくなってしまいますが、1日たってもう一度 アクセスするとまた新しく 3000 文字を音声化することができます。ただし これはこの原稿を書いている時点のもので、このタイプのウェブサービスはユーザーの数が増えると無料で使える上限が少なくなってしまったりすることもありますので、皆さんが利用する時は各自説明をご確認ください。この ttsmp3.com という ウェブサイトは細かい設定はできませんが、その分非常に シンプルで、
1.入力欄にテキストをペーストして
2.ダウンロード というボタンを押す
というたった2ステップだけでテキストを音声化することができます。アカウントを作ったり、ログインしたりする手間も必要ありません。

もう少しパソコンに詳しい人でしたら CoeFont というウェブサイトもあって、このウェブサイトではアクセントを変えたり、非常に細かい設定をすることができます。まず声の種類を何種類もの選択肢から選ぶことができます。 声の種類によって無料で使えるものと有料でなければ使えないものがあります。声のモデルも有名な声優や俳優などが含まれているので、そうした有名人のファンの人でしたら学習動機を維持する上でとてもいい教材になるのではないかと思います。ただし、これは 設定などの操作が複雑なので、あまり パソコンなどに慣れていない人にとってはちょっと 敷居が高いかもしれません。

さて、大規模言語モデルを利用した聴解力を伸ばす方法の1つとして「好きな文章を作成してから音声化する」という方法をご紹介しましたが、これには「大規模言語モデルのインタラクティブ性を活かしていない」という大きなデメリットがあります。そこで2番目の方法をご紹介してみたいと思います。

この方法はシンプルに「リピートしてフィードバックをもらう」という方法です。 僕が実際に使ってみた プロンプトは以下の通りです。

「あなたは日本語の先生として振る舞ってください。私に【冒険に関する】CEFRのA1レベル短い日本語の短文を一つ提示して私の反応を待ってください。私がその日本語を繰り返します。それが正しかったら次の短い日本語の短文を提示してください。私の繰り返しが正しくなかったら正しい答えを提示してその後で次の短い日本語の短文を提示してください。 私が『ありがとうございました』と言うまで続けてください。」

ご覧になればわかると思いますが、自分のレベルに合わせたテキストをランダムに話してもらってそれをこちらが正しく リピートできてかどうかを判断してもらうという方法です。

これを使うにはいくつかの Chrome の拡張機能が必要です。 1つ おすすめするとすれば、前の節でもご紹介した Voice Control For ChatGPT をあげておきたいと思います。これもとてもシンプルな拡張機能で、スペースキーを押している間だけこちらの話を聞いてもらうことができます。そしてスペースキーから指を離すと録音された音声ファイルが自動的に文字に変換されて ChatGPT に送られます。もちろん ChatGPT が表示したテキストもその場で自動的に音声化されますので、聴解力を伸ばすのにも使うことができます。 本当に聴解力だけを伸ばすには画面を見ないで音声だけで練習するといいでしょう。しかしまだ 聴解力が十分ではない時は、文字も見ながら音声を聞くという方法をとることももちろん 可能です。

実際にこのプロンプトを使っているところをご覧になりたい方は、こちらのリンクを開いてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=LrU68zSDQ6s

最後にご紹介したいのは、単にリピートするのではなくて、それを自分の母語に翻訳するという方法です。というのも、シャドーイングなどを練習したことがある人にはよくわかるだろうと思いますが、実はあまり意味を深く分かっていなくてもリピートすることは可能だからです。 しかしそれを母語に翻訳する練習でしたら、きちんと意味を考える処理が必要になってきます。

ただし この練習をするには、先ほどの Voice Control For ChatGPT を使うことはできません。 なぜなら、この拡張機能は「文字を音声化する言語」とその逆に「音声を文字化する言語」を別々に設定することができないのです。つまり 日本語を聞いて日本語でリピートするような場合には使えるのですが 、例えば日本語を勉強しているイギリス人が日本語を聞いてそれを英語に翻訳してフィードバックをもらうようなことはできないのです。そのためには、これも前の節でご紹介しましたが、 talk to ChatGPT という別の Chrome 拡張機能を使う必要があります。これは「ChatGPT が表示した文字を音声化する時の言語」と、「ユーザーが音声で話してそれを文字化して ChatGPT に送信する時の言語」を別々に設定することができます。つまり、先ほど例にあげたような日本語を勉強しているイギリス人が日本語を聞いて英語に翻訳するような練習に使うことができるのです。

以下のビデオで、実際に僕がこのプロンプトを使って英語を聞いて日本語に翻訳しているところをご確認できます。
https://youtu.be/bGPwHzKG5DQ?t=86

この節では ChatGPT を使って聴解力を伸ばす3つの方法についてご紹介しました。それぞれに長所や短所がありますので、皆さんの条件に合うやり方を選んで実施してみてください。
posted by 村上吉文 at 12:05 | TrackBack(0) | 人工知能と日本語教師 | このエントリーをはてなブックマークに追加

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