1997年12月29日

砂の国日本語教育22

12/25

 世はクリスマスだってのに、今日は第一レベルの聴解試験。

 しかーし、またしても問題が。
教員用のコピーマシンの部屋が閉まっているのだ。ガーン。学生用のコピー機の部屋もカギがかかっている。 こちらでの木曜日は、日本の土曜日のような半休で、所によっては全休になっている。学内の売店なども軒並み閉店。しかし、木曜日は俺も学校に来ないので、こんな状況だとは知らなかったのである。試験があるなら休みじゃないわけで、当然コピー室も開いているだろう、といつの間にか決め付けてしまっていたのだ。

 「どうして試験だけあるんだよ」と泣き言の一つも言いたくなるが、しかし、この試験だけはどうしてもコピー機を見つけないとできない。そのうち学生も集まって来た。

「試験したいんだけどね、あれがなくて」

「あれって何ですか」

「コピーの機械が」

「コピー? 分かりません」

「コピーです、ゼッロクスコピー」

学生の一人が「ああ、分かった」と手を上げる。「のどが乾いてるんですね」

「そりゃコーヒーだろ。困ってるのはコピーだって」

というようなギャグの世界を日本語アラビア語のチャンポンで繰り広げながら、何とか事情を説明して、学生たちとコピー機を探しに行く。「先生、私の車で近くのコンビニまで行ってきましょうか」申し出はありがたいんだけど、しかし試験問題を一人の学生の目に触れさせるのも問題だなあ。

 思案していると、視聴覚教育の技師が通りがかった。(この大学は20以上のLL教室があって、さらに教材の編集なども専門の技師がやってくれる) 彼はエジプト人なので英語が通じる。「すみません、試験の問題をコピーできるところを探しているんですが」「ああ、だったら**先生の所に行けば、会議室のカギを持っているから、そこでコピーできるよ」そりゃ、いいや。

 無事に聴解試験も終わり、上の部分を書きかけていると、第5レベルの待遇表現の試験の時間になってしまった。この試験は例えば「すみませんが、研究室はどこですか」を「ちょっとお尋ねしますが、研究室はどちらでしょうか」に書き直すもので、全部授業中にしつこいほどやったのを、そのままの形で出すという簡単なもの。

 試験中にユーモラスなタイプの方が二枚目タイプに話しかけた。身ぶりを見ると「修正液を貸して欲しい」と言っているようだ。 モンゴルで教えていた時は、この程度でも怒ってしまっていたもんだなあ。確かに俺の通っていた小学校や中学校では、たとえ間違って書いたにしろ、消しゴムを借りて直すようなことは考えられなかった。

 しかし、どうしてそこまで厳格になってしまうんだろう。もちろん不正行為を防止するのが目的なのだろうけど、教師の目の前で消しゴムを借りるのも許さないという感覚は、あまりにも不信に満ちているように思ってしまうんだよなあ。

 試験が終わって採点していると、見慣れない学生が部屋に来た。日本で学生をしている弟がいると言う。で、今度うちに来て、帰国中の弟に会ってほしいそうだ。

 わーお。サウジ人の家に招待されるのは初めてだ。でも、これって本当に招待なのかなあ。後でK先生に相談してみよう。 あ、でももうすぐラマダン(断食月)になってしまうなあ。行くならその前の方がいいかな。

 モンゴルでは、よく生徒の家に招待されたが、サウジではそういう習慣はあまりないのだという。その学生の家は解放的な方なのだろう。だいたい、英語でコミュニケーションができるところからして、他の学生とは違う。

 F先生の話では、サウジ人の家に招待されるのはなかなか大変だそうだ。

 まず、男女は完全に隔離されていないといけないので、男性の客がその家の女性と鉢合わせしないように、トイレに行くにも家中の女性に「客が今から居間からトイレに行くぞ」と知らせなくてはならないらしい。最近ではそういう面倒を避けるために、客用のトイレがある家もあるという。 ちなみに、この「客」というのは親族ぐらいの関係のことで、外国人が招待されるのは、やはり少ないそうだ。

 しかし従兄弟でさえ、そこまで男女を隔離するとは。

 それから、奥さんの手料理を食べても、決して「奥さんは御料理が上手ですね」とは言ってはいけないそうだ。どうしても誉めたければ「この料理はおいしいですね」と言わねばならないとか。奥さんを誉めるのは非常に失礼だという。特に夫人の美しさを誉めるのは御法度中の御法度らしい。(もっとも目にする機会も皆無だけど)

 F先生の育ったエジプトでは、そういう面は少なくなってきているらしいが、この湾岸地域ではまだまだ厳しいらしい。F先生の授業中にも、「日本人は相手の夫人の美しさを誉めることがあるが、決して侮辱ではない」という話に、「そんなこと言う奴がいたら、ここじゃ殺されます」と言った学生がいたという。 サウジ人の家に行くのも命がけだな、こりゃ。

 F先生よると、相手の奥さんを誉めるのは「いやらしい」のだそうだ。

 うーん、そう言われてみると、ここまで保守的なところなら分からないこともない。



・料理の上手な奥様ですね。

・魅力的な奥様ですね。

・美しい奥様ですね。

・スタイルの素晴らしい奥様ですね。

・プロポーションのいい奥様ですね。

・セクシーな奥様ですね。

・バストが豊かな奥様ですね。



 日本でも、「バストが豊かな」は「ほめ」ではあるだろうが、確かに相手の夫人に対する言葉としては使えないだろうなあ。 日本では性的な話でなければほめてもよさそうだけど、この国では、「夫人の存在」に触れるだけで失礼なのだろう。でも「いやらしい」と感じるなら、夫人の存在というのが、性的なものでしかないのかな。

posted by 村上吉文 at 07:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
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