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2012年02月26日

経済交流のない国で日本語を教えることに意味はあるのか。

 ビデオなどをご覧になった方も多いかも知れませんが、昨日の海外日本語教育学会では、何度か「日本語を教える意味」ということが問われていました。僕が協力隊の隊員だった時にも、ずっと後になっても「ここでなぜ教えるのか」という問いに悩んだこともあります。そして、今でも多くの地域で共通する問いでもあるでしょう。

 二番目に発表なさった小林さんの言うとおり、その「意味」には学習者の個人的なレベルから、学校、自治体、そして国家まで、いろいろなレベルでの「意味」が定義できます。そして、国レベルの「意味」において、もっともよく聞かれることの一つが、その国と日本の間に経済交流がなく、就職先もないというようなことです。実を言うと、僕もモンゴルにいた時にはそういうことがずっと引っかかっていました。

 しかし、20年たってようやく分かったことの一つは、「その時に経済交流がないからと言って、日本語教育の意味がないとは言えない」ということです。昨日の発表でも20年後の追跡調査の事を話しましたが、教育というのはその成果が現れるまでに10年も20年もかかるものです。今、その国と日本の間に経済交流がないからといって、その後もずっとそのままであるとは限りません。

 たとえば、このグラフを見てください。

 これはモンゴルのGDPの伸びです。僕が派遣された1992年はまさにベルリンの壁崩壊直後の混乱の中で、経済が真っ逆さまに墜落していく最中だったことが分かります。この時にはその後モンゴルの経済がこんなに伸びるとは、実はまったく予想していませんでした。

 しかし、20年後の現在、「モンゴル投資ガイド―親日国家×成長性=今、イチバン熱い新興国」なんていう本が出版され、JETROのモンゴル展に30近くのモンゴル企業が出展するようになっています。

 もしかしたら経済の専門家の皆さんには20年前からこういう日が来ることが予想できていたのかもしれませんが、一介の日本語教師に過ぎない僕は本当にこんな時代が来るとは夢にも思っていませんでした。

 そして、こういう日が来てから日本語教育を始めようとしたら、それは手遅れなのです。昨日の発表で紹介した、モンゴルの初中等教育で最初に正規の専門として日本語を学び始めた世代が、今28歳から30歳。中にはモンゴルに進出している日本の一流企業に勤務している卒業生や、モンゴル外務省、在モンゴル日本大使館などに務めている卒業生もいます。

 日本語の使える彼らが今そこで活躍しているのは、こういう日が来ることを見越して、20年以上も前から協力隊の派遣取極を結んだり、あるいはマイナス30℃を下回る厳冬のウランバートルで、各学校をめぐって個々の派遣の条件などについて話し合ってくれた人たちがいたからなのです。

 当時は確かに「こんな経済交流のない国で、いったい何の意味があるのか」と思ったこともないわけではありません。しかし、今なら胸を張って言えます。今、日本とモンゴルの経済交流の第一線で活躍している世代に、現場で自分は関わっていたのだと。もちろん、それには前に述べた、さまざまな事務的な業務や、リスクをとる決断をしてくれた人たちがいたからこそなのですが。

 今、この2012年にも世界のどこかで同じような悩みをかかえている日本語教師がいるかも知れません。その人達に僕は言いたい。グローバリゼーションはもはや止めようがなく、今、その国と日本の間に経済交流がなかったとしても、ある日、突然にそういう日がやってきていることに気づくはずです。その日、その教師はすでに現場を離れていることになっているかもしれません。しかし、経済交流が盛んになってきた時に、それを支える人材がいるのは、まぎれもなくその時代の前からその準備をしていた人たちがいたからなのです。

 現場で苦労する意味について悩んでいるときは、いつか必ずやってくるその日のことを想像してみてください。その日、そこで活躍している人材は、いま教室であなたを待っている子供たちなのかもしれないのですから。
posted by 村上吉文 at 15:17 | Comment(2) | TrackBack(0) | 主張 | このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
日本人日本語教師の考え方を勉強になったりして、面白い表現も分かってきたりして、ありがとうございます。経験に基づいてとても面白い考え方だと思います。
Posted by リク at 2012年02月28日 11:54
リクさん、こんにちは!
インドネシアは昔から日本と深い交流がありましたから、あまりそういうことは考えなくていいと思うんですけどね。
Posted by 村上吉文 at 2012年02月28日 12:31
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