月刊日本語からいらした方はこちらへ!

2012年02月15日

「9歳の壁」

9sainokkabe.jpg

 「9歳の壁」というのは母語の維持とかバイリンガル教育の点からも非常に重要な概念だと思うのですが、検索してみると日本ではどうも聴覚障害の関係で語られていることが多いようです。海外在住者が少ない時代がずっと続いていたのですから、以前はもちろんそれで当然でした。しかし、最近は我が家も含めて海外で子供を育てる家庭も少なくないと思いますし、逆に日本で日本語を話せない子供に対応しなければならない教育関係者も増えていると思いますので、今日は海外に暮らす健常児の面で第一人者による研究の事例をご紹介します。

 実を言うと、僕自身が自分の娘をカイロの日本人学校に入れたのにも、このグラフが非常に大きく影響しています。「9歳の壁」というのは概念としては知っていましたが、ここまで明瞭な違いがあるとは、しょうじき思っていなかったのです。

 このグラフが示しているのは、簡単に言ってしまえば、「9歳までに海外に出た子供は母語の力が落ちる。10歳以上になってから海外に出れば母語も伸びる」ということです。つまり、9歳までに母語の基礎を作っておけば、それ以降は現地語だけでなく母語も伸ばすことができるが、母語の基礎ができていないうちに母語の使用頻度が少ない環境に入ってしまうと、現地語はともかく母語は衰えていってしまうというわけです。

 このグラフは中島和子先生の「バイリンガル教育の方法―12歳までに親と教師ができること」という本に出てきます。学術論文ではないので、どなたでもご関心のある方にはご一読をお勧めします。うちのように海外に住んでいる日本人はもちろん、外国から来た家庭の子供の発達に関係している日本の先生方も必読ですよ。

 その他、最近ではよく知られるようになってきてはいますが、この本では外国語を伸ばすにはまず母語をきちんと育てることが大切であることなども詳細なデータを紹介しながら説いています。大人ならともかく、日本の学校で子供に「日本語以外は使わないにしようね」などと親切心から言っている先生もいると聞きますが、そういった場所でもこの本は役に立つのではないでしょうか。



posted by 村上吉文 at 14:53 | Comment(2) | TrackBack(0) | 書評 | このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
村上先生には3年ほど前にラオスで研修があった時にお目にかかりました。それからむらログ見せていただいています。私も海外在住で、むすこは4歳なので、最初は「うちのこはバイリンガルになるの?、すごいなぁ」と思っていましたが、最近は、「この子の日本語は大丈夫だろうか」と心配しはじめたところでした。「バイリンガル教育の方法」読みたいと思います。
Posted by 島本恵子 at 2012年03月28日 13:30
島本さん、こんにちは。コメント有難うございます。ラオス、懐かしいですねー。いい人達ばかりでした。
今もラオスにいらっしゃるのですか? もしまだいらっしゃるのでしたら、相馬森先生によろしくお伝え下さいませ。
Posted by 村上吉文 at 2012年03月28日 16:55
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック