2011年02月15日

エジプト革命。ネットが遮断されるまでの生活について。

ムラバク辞任でエジプト革命は最初の山を越えたようですね。1月28日にネットが遮断された後の僕自身の経験は、その間に撮りためておいたビデオを「窓から見たエジプト革命(動画)」というエントリーでご紹介していますが、25日の革命勃発以降、28日の遮断までの間のことを何人かの方に聞かれましたので、ここに記しておきます。

さて、最初の大規模な衝突は1月25日に起きました。当日の朝は出勤前に自宅で日本文化情報をtwitterで発信する業務をしていたのですが、デモの予定は知ってはいたものの、その頃はまだデモにあれほどの人数が集まるとはまったく思っておらず、以下のような書き込みでした。
とりあえず、今日の日本文化情報発信業務終了。これから職場に向かいます。デモは荒れるかな? http://twilog.org/JF_Cairo/date-110125 写真12枚、動画8本、その他いろいろあります。授業でご紹介くださったらありがたいです。http://twitter.com/Midogonpapa/status/29818032368914432

この頃は#jan25というハッシュタグに情報が集約されていましたが、これはまだ世界的には全く注目されていなかったので、主にエジプト国内の学生たちが連絡用に使っていました。

何かすごいことが起きているらしいと感じ始めたのは、タハリール広場のすぐそばにある職場に着いてからです。カイロ大学前に集まると言われていたデモの予定が、タハリール広場へと変更になったというツイートが一斉に流れ始めたのです。
カイロのデモですが、すごい情報戦が展開されているのかも。これは成功したらまさに新しい時代の革命と言える事例になると思います。 http://bit.ly/gSKRDl でも、ここに住んでいる身としては荒れてほしくないです。
http://twitter.com/Midogonpapa/status/29849028174807040
 直前になってのデモ実行場所の変更が、前もって予定されていたのかどうかは分かりません。しかし上記のリンク先のように多くの人がこの鮮やかな作戦に衝撃を受けました。結果として、機動隊はデモ隊のほとんどいないカイロ大学前に集まり、逆にタハリール広場ではデモ隊が機動隊を圧倒する結果になったのですから。

 事態の展開が分かりかけてきたのは、次の写真です。

左上に見えるのは有名なエジプト博物館で、そこから続々とタハリール広場にやってくる人たち。これは予想を遙かに超えた事態になっていると思いました。その日の夜も僕は授業を担当していたのですが、前もってキャンセルしておかなかったらどういうことになっていたのでしょうか。われわれも早めに事務所を退去することになったのですが、退去する前に、まさに事務所の前の道路でデモ隊と機動隊の激しい衝突が始まってしまいました。以下は僕が事務所の窓から撮影した動画です。



まさに右には機動隊、左にはデモ隊という状況です。この時点でも、「これは面白いものを見た」というぐらいの感覚でビデオを撮っていたのですが、どうもすぐに制圧されるという雰囲気ではありません。デモ隊が広場の方に押されていって「今だ」と退去しようとすると、また押し返されてきたりして、なかなか外に出られないのです。次第に「こりゃ、泊まりかな」と覚悟をしはじめました。

何とか事務所の次席の車で退去できたのは現地時間の六時半ごろでしたが、中心地を離れて驚いたのはその平穏ぶり。普通にマクドナルドのデリバリーのバイクなども走っているし、都心のあの荒れようのかけらも見あたりません。車の中でみなが「革命っていうのはこうやって始まるものなのか」と話し合っていたのをよく覚えています。

おそらくtwitterの遮断がこの頃始まったのだと思うのですが、その頃はまだ「こんな大事なときに不具合が起きるなんて運が悪いな」という認識でした。しかし、無事に家に帰り、家からアクセスしようとしてもYouTubeなどは難なくつながるのに、ツイッターだけはつながりません。ふと前任地のベトナムでもある時から急にfacebookが使えなくなったのを思い出し、ニュースを検索してみて見つけたのがこちら。やっぱり政府がブロックしていたのです。

僕は2010年9月にエジプトに来たばかりだったし、日本の公的機関から派遣されている人間なので、とにかく荒れないで普通に仕事ができればいいと思っていたのですが、このニュースを読んだときに、本当にムバラク政権を支持していていいのか、と疑問を覚え始めました。

「インターネット上では正義が勝つ」と言ったのは佐々木俊尚氏ですが、これに従うならネット遮断する人物は正義を勝たせたくない、つまり邪悪な人間のはずです。

その後、発言はできなくても、せめてtwitterで情報を読むことはできないかといろいろ試してみたのですが、GOOGLEのリアルタイム検索で#jan25などのハッシュタグを検索するといいことが分かりました。また、twitterが読めない間にYouTubeにアップロードしていた動画も、自動通知で「アップロードしました」というツイートが自分の名前で書き込まれているのも確認することができました。はてなのブックマークを使って同じような自動通知を設定していたので、twitterが遮断されている記事などをエジプトにいながら発信することができました。ブログも更新すると自動通知するようにしていたので、このリアルタイム検索の方法を「#jan25 How to read twitter when it is blocked.」というタイトルで書きました。こればっかりは日本語で書いてもあまり意味がないので、「むらログ」史上初めて、英語で書いたエントリーになりました。

事務所から逃げ出した翌日(26日)は、次席から自宅待機せよとの連絡があり、おかげさまでエジプト国外からの情報提供により自宅で事態の推移を見守ることができました。ニューヨークタイムズが第一面のトップで大々的に写真付きで報じ、#jan25などのハッシュタグに世界中(日本と中国を除く)からアクセスが殺到しはじめました。一度読み込んだら、もう次の瞬間には「新しいツイートが100件あります」などと表示される始末。こういうときには何らかのフィルタリングが必要ですが、「リンクと一緒にツイート」を押すと、ツイートを数分の一に減らすことができました。ちなみに#jan25の「リンクと一緒にツイート」はこちらです。

この日に驚いたのは、ネットで見るタハリール広場と自宅近くの状況のギャップ。うちの子供たちも朝の七時半には普通に幼稚園のバスに乗って行きましたし、近くの小学校も子供たちがいつも通り騒いでいます。幼稚園からの帰りは念のためバスはやめさせて妻と二人で迎えに行ったのですが、その道すがら何らかの異常はないかと注意して移動していたにもかかわらず、本当に日常的な風景しか目に入りませんでした。

一方、このころ非常にありがたかったのは、おそらくエジプトの国外からと思われるさまざまな発信でした。アルジャジーラやCNNがどのように報じているかを知ることができただけなく、ムバラク政権によるブロックをくぐりぬけてtwitterにアクセスする方法を知ることができたのです。電話の音声通話を使う方法なども紹介されていましたが、僕が使ったのはTorというツールでした。どういう仕組みなのか詳しく調べる余裕はありませんでしたが、とにかくこれをインストールして、ブラウザを特定の方法で設定すると、実際にtwitterにアクセスでき、そこで書き込みもできるようになったのです。

このTorに関しては、インストールは簡単でも、ブラウザ側の設定が少し面倒くさいので、それをブログで説明したりしていたのも、この日のことでした。

翌27日も朝方に自宅待機との連絡がありました。また、この日は28日にカイロで大規模なデモが予定されていたので、27日から家族をルクソールに避難させました。ルクソールのような観光資源のある街なら安全をアピールするのが大切なので、物騒なことは何もないだろうと思ったのです。ただ、ルクソールは安全だったのでそれ自体はまったく正しかったのですが、後でエジプトから緊急待避する事態に発展したこと考えると、ここは明らかに判断ミスでした。イランやアルジェリアに住んでいる日本人の皆さんも、首都が危ないから事前に地方に避難というのはやめておいた方がいいです。

ということで自宅で一人ネットから事態の推移を見守っていたのですが、おどろくべきメッセージが日本から飛び込んできたのもこの日でした。
村上様
はじめまして、●●法学部2年の●●と申します。
エジプトについて質問させていただいてもよろしいでしょうか。
2月の後半に学生会議でUAE、カタールに行くのですが、
そのプログラム前にドバイからエジプトに行こうと計画しています。
日本以外の国からエジプトへ行くので何かと心配なのですが、
日本でドバイーカイロ間を買う、あるいは現地(ドバイ)で買うのは
利便性や金銭面から考えるとどちらが都合がよろしいのでしょうか。
お忙しい所大変申し訳ありませんが、
お答えいただける範囲でお答えいただけましたら幸いで御座います。
何卒よろしくお願いいたします。失礼いたします。
伏せ字にしてありますが、早稲田じゃない方の超一流私立大学の学生です。中東に縁のない学生ならともかく、中東の学生会議に出席するような人ですら、今のエジプトの革命を知らないのか、ということに愕然としました。それで僕が送った返事がこちら。
丁重なメッセージをありがとうございます。

ただ、たいへん申し訳ないのですが、私は会社のお金で来ているので、そういったことはあまり詳しくないのです。
ところで、お金を心配する前に、今のエジプトの状況をご存じですか?
革命が進行中なんですよ。ニューヨークタイムズなどでは一面トップで報道されていますが、あまり日本では報道されていないのですか?
明日の日本時間夜八時から大規模なデモが始まりますから、必ずテレビやネットで見ておいてください。知らない人がいたら、すごいことがエジプトで起きていると知らせてください。
この学生さんからはその後、お礼も含めてまったく連絡がなかったので、学生会議の行方は分かりません。ところで、Googleニュースなどでは日本語のマスメディアによるデモの報道なども出ていたのですが、どうもほとんどの人が気がつかないような扱いだったようです。しかし、9割近くの石油を中東に依存している国の報道として、これでいいのかな、とかなり暗澹たる気持ちになりました。

この日は翌28日の「百万人行進」デモを控えてあまり大きな動きはなかったのですが、その分、ネット上では情報戦が激しさを増していました。それまでは反ムバラク派のためのツールだったtwitterに、親ムバラク派らしい書き込みが急増し始めたのです。「外出禁止令が出たとアルジャジーラが報じた」「デモ隊に対する発砲をムバラクが許可した」「金曜の礼拝は全国で禁止された」などです。外出禁止令はこの時点では明らかに出ていませんでしたし、デモで実弾による犠牲者が出たのは事実ですが天安門のような組織的な発砲ではなかったことから、おそらく発砲許可もデマだったのではないかと思われます。が、これらのデマは翌日のデモの参加者を減らすためには有効だったかもしれません。一方、反ムバラク派にも「大統領の次男がロンドンに逃げた」「軍隊が警察に協力することを拒否した」など、デモを勢いづかせるためのデマを流して反撃する人たちもいました。

エジプトの学生たちのエネルギーとか実行力には本当に驚くべきものがありますが、「嘘を嘘と見抜けない人は、この掲示板を利用するのは難しい」とかいう世界で鍛えられている国の住民に比べて、こういった流言飛語のたぐいに振り回されている感は払拭できませんでした。で、お節介とは知りつつ、
Guys, no #curfew is found in aljazeera.net. http://bit.ly/gt2LFQ Do not believe anything without its information source. #jan25
http://twitter.com/Midogonpapa/status/30335713383809024
(ジャジーラのサイトには外出禁止令など載っていない。ソースがない発言は信用するな)
などと僕もつい書き込んでいました。

また、デモ隊の過激な行動に不安を感じ始めたのもこの頃です。たとえばYouTubeでは地下鉄の駅で運行を妨げるような形でデモを行っている動画が投稿されたりしていましたので、僕はデモ参加者に対して以下のように自制を求める発言などもしていました。
#1M Guys, DO NOT BREAK ANYTHING TOMORROW. It will just give them excuse to use their weapon. DO NOT LET THEM USE THEIR WEAPON AGAINST YOU!!!http://twitter.com/#!/Midogonpapa/status/30591713277902848
これなんか今思うと完全に内部の人間として発言しちゃってる感じですね。ただ、天安門事件のような事態に発展することだけは避けたかったのです。

この日も一度だけ外に出たのですが、少なくとも私の住んでいるドッキという地域では、都心の衝突やネット上の激しい情報戦とまったく隔絶された、何も普段と変わらない喧噪のカイロでした。

翌28日(現地時間)からtwitterのみならずネットそのものが遮断される事態となったのですが、27日の夜までに翌日の百万人行進の出発地32カ所のリストや行動規範などがマニュアルとしてまとめられ、共有されていました。もう一日ネットの遮断が早かったらあそこまで組織的なデモにはならなかったと思うのですが、やはり学生たちの方が政府の対応より常に一歩だけ先に行っていたようです。また、「明日には携帯の音声通話も遮断されるから、固定電話の番号を控えておくように」といったアドバイスも繰り返されていました。このあたりは半信半疑だったのですが、念のため職場の同僚などとも固定電話の番号を確認しておいて、本当に翌日になって助かりました。なお、このマニュアルでは平和的にデモを実施し、蛮行を慎むことなども明記されています。

こうした行動規範が翌日の大規模に結実するわけですが、僕自身はネットが遮断され、情報の隔絶した世界で籠城生活を2月2日まで送ることになります。

籠城生活につきましては、「窓から見たエジプト革命(動画)」をご覧ください。
posted by 村上吉文 at 13:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
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