2009年12月02日

Winner takes it all.を日本語教育の世界で見た!

「Winner takes it all」というのは、アバの歌でも有名ですが「勝者がすべてを持っていく」ということで(そのままですが)、要するにインターネットの世界では第一位の勝者だけが競争の戦利品を受け取れ、二位の人は何も手に入れることができない、というようなときによく使われます。

さて、先日、ハノイの某所でMoodleを使ったe-learningによる日本語能力試験の対策講座を見学したんですが、これがすごい。会話の授業などではまだ未知数ですが、少なくともこうした受験指導の分野では、これはとてつもない破壊力をまざまざと見せつけてくれます。

何かというと、その効率性です。

過去の問題例がデータベースに入っていて、間違ったところだけマーキングされますから、自分の分からないところだけ集中的に勉強できるような仕組みが簡単に作れるんですね。今回のバージョンでは、学生が次の問題を解いている間に、教員が次の問題を準備しているんですが、この「準備」というのも問題のデータベースから登録するだけ。もちろん、問題を手でタイプするような手間は必要ありません。その場でご紹介してくださった方の話では、不正解の問題と同じ文法を扱った別の問題だけをデータベースから新たに抽出してその学生に出題するようなこともできるのだそうです。

まあ、Moodleで簡単にそういうことができるということは知っていたんですが、やっぱり生で見ると違いますね。かなりの衝撃を受けたというのが正直なところです。

それで、帰り道につらつらと考えたんですが、これから教師の役割はどんどん小さくなっていくんだろうな、ということ。大切なのはコンテンツを作ることであって、教室でのパフォーマンスではないわけです。これは、優秀な教員が教科書を作るというレベルではなくて、もう文法や語彙などの授業そのものがMoodleのようなシステムで代替されてしまうようになるのではないかと思うのです。

そうすると、簡単に想像できることが、コンテンツを作る教師はそんなにたくさんいらないってことです。つまり、一握りの優秀な教員が、そうでないその他おおぜいの教員を駆逐する世界。

ちょっと背筋が寒くなってきたので、これからMoodleの勉強を始めようと思います。

で、手元の本などをちょっと見てみたのですが、どうも語学教育とけっこう相性がいいらしいです。『Moodleを使って授業する!なるほど簡単マニュアル』という本は英語の先生が書いた本だし、英語の本では"Moodle 1.9 for Second Language Teaching"なんていうのもあります。

これからいろいろやってみて、だめだったこと、うまくできたことなんかも、ここでご紹介していきたいと思います。







posted by 村上吉文 at 08:17 | Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
こんにちは。 フランスの内田です。「Moodle」のことなのでコメント送ります。
とてもいいコンテンツが増えていくだろうと点では賛成です。おもしろい読み物や練習ゲームを世界中の日本語学習者が共有する、と想像するだけでうれしくなります。テスト対策のコンテンツも全世界共通になったら!? どうしましょう?
半年くらい前に「Moodle」について、E-learningで学んだのですが、そこでは、コンテンツの受け渡しでなく、Interactive(指導者ー学習者)のコミュニケーション(掲示板)を利用しながらコンテンツを作る手法で学びました。
そこで、「Moodle」で重要なのは指導者の役割(学びを引き出す方向指示者)だと実感しました。これは教室でもいえることで、教科書でなく、学習者と教師が一緒に作り出すパフォーマンスの中で学びがされていくという実感なのです。 つまり、教師しかできないことを教師がしなければならないということで、わりと明るい教師像を描いているのですが。
いいかえるとコンテンツを渡すことと、学習者が学ぶということは同じことではないという意味です。
Posted by 内田陽子 at 2009年12月02日 18:25
内田さん、ご無沙汰しております。
Moodleに限らず、コミュニケーションツールはそういう方向で使えますよね。僕もこの辺は面白そうだな、と思っておりますし、人間の重要性は変わらないと思っています。もともと、言葉は人間の使うものですしね。
それについては以下にちょこっと書いたことがあります。
http://mongolia.seesaa.net/article/112727323.html
ただ、その前段階として文法や語彙を知識として身につけるような目的には、データベースを活用すると、ものすごい効率でできそうな気がするんですよ。その端的な例が受験指導なわけですが。
ところで、Moodleを使えるかどうかっていうのは、かなりの部分が組織のサーバー管理者の腕によりますよね。うちはかなり不幸な部類で、自分でサーバー立てるところからやってます。なかなか大変ですよ、とほほ。
Posted by 村上吉文 at 2009年12月02日 19:31
サーバー管理者能力しだいというのに同感です。
こういうものを使えば、というコンテンツは作れるのだけれど、それを使いやすくMoodleの中を整理して作っていく人が必要で、またフィードバックを受けながら変更していく迅速さも必要。私の出る幕ではない・・・と実感して、チームができないと使えないという結論でいます。
Posted by 内田陽子 at 2009年12月03日 18:11
大変ご無沙汰しております。別府大学の篠崎です。

今回の記事、大変興味深く拝見させていただきました。

というのも、実は私も大学の授業で同じことをしているからです。

日能試1.2級6年分の過去問にテキストや動画による解説を加えてコンテンツ化したものを、1クラス40人〜60人を相手に授業をしています。(いわゆるブレンディッドラーニング(以下、BL)です。)

もちろん、問題の利用については日本国際教育支援協会様の許諾を得たうえで行っています。

Moodleを使ったブレンディッドラーニングのメリットを思いつくままにあげると以下の通りです。

1.大多数の学習者に一斉に教育を提供できる。
 例えば、国内の日本語学校であれば1クラス上限20人となっていますが、BLだとインフラさえ整っていれば、1クラス50人でも教員1人で十分対応できます。(おそらく100人ぐらいまでは余裕です。)つまり、人件費の節約に大きく貢献できるということです。(その分、おそらく教員一人当たりの待遇改善につながるでしょう。)

2.一度構築すれば、教員の授業負担が激減する。
 まず、授業の準備が要りません。限りなく0です。また、今までのように大声出して授業をする必要もありません。さらに、私の場合、定期試験もMoodelで行っていますので(文法のみ)、問題作成の必要もなければ採点業務もパソコン任せです。前期の文法の授業では約50人の学習者に60分150問の定期試験を2度行いましたが、試験終了と当時に採点終了、一瞬にして集計結果一覧が表示されます。おまけに得点分布のグラフつきです。

3.詳細な学習履歴データに基づいた個別指導が可能
 学習者がどの問題でどの選択肢をチェックして間違ったかといったデータがすべて記録として残るので、それに基づいたピンポイント指導が可能です。つまり、ブレンディッドラーニングだと、大多数の学習者を相手に一斉授業と個別指導を両立して行えるわけです。

4.コンテンツの作りこみが比較的容易
 問題の追加・修正がとても簡単です。紙媒体のテキストであれば一度出版してしまうと修正がききませんが、Moodleであればその場で修正や改変が可能です。ネタさえあれば新試験への対応も素早くできます。また、「この動画コンテンツを何分以上見ないと次のコンテンツに進めない。」とか「この問題で何%以上できないと次のコンテンツに進めない。」といった制限も簡単に設定できるので、こちらの思惑通りに学習者を誘導することができます。

5.他のメディアとのコラボが容易
 メルマガや他のサイト、Youtube動画との連動が簡単にでき、プレゼンの表現力が飛躍的にアップします。例えば、文型を提示する際に、意味・構文・例文に加え、その文型に関連付けた動画を見せることで知識の強化を図ることもできます。

 他にもいろいろありますが、主だったものは以上です。

 それから授業中における教師役割ですが、内田先生のおっしゃる通り「学びを引き出す方向指示者」という位置付けは、私も同感です。

 私は、これを「メンター」と呼んでいます。

 「メンター」とは、精神的な支えといったような意味ですが、まさに学びの水先案内人のような存在です。

 例えば、私は授業の中で前回の日能試1級の得点分布のグラフを学習者に見せます。そして、

 「受験者が一番多い得点は、280点をわずかに下回る275点から255点の範囲だ。彼らは280点を目標に勉強した結果、このように一番悔しい結果になったんだよ。つまり、目標の8がけが結果につながる。だから、目標を高く持ってその目標に向かって本気で勉強しなさい。」

とプレゼンし学習意欲を惹起させるわけです。このようなプレゼンを数回行ううちに、学習者の態度は変わっていきます。

つまり、教師は勉強そのものではなく勉強方法や勉強に対する姿勢を教える存在なのです。

ドロップアウトを引き起こしやすいeラーニングにおいては、生身の教師のこうした働きかけが非常に重要ではないか、というのが私の実感です。

すみません、長くなりました。

何かの参考になれば幸いです。
Posted by 篠崎大司 at 2009年12月12日 12:05
篠崎先生、ご無沙汰しております。貴ブログも時折拝見しております。
Moodleを駆使していらっしゃるご様子、うらやましい限りです。篠崎先生はたしか日本語能力試験対策講座などでもなさっているのでしたよね。
ブログの方も更新を楽しみにしております。
今後とも宜しくお願いいたします。
Posted by 村上吉文 at 2009年12月12日 15:52
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